ピアニスト スタニスラフ・ブーニン
ドキュメンタリー映画を観てきました。

この作品は、まるで音楽のように4つの楽章で構成されています。
第1楽章「天才」、第2楽章「苦悩」、第3楽章「試練」、そして第4楽章「亡命者」。

ブーニンの人生を支え続けたのは、妻の 中島ブーニン榮子 さん。
その献身的な姿はとても印象的で、胸に深く残りました。

また、昨年の来日コンサートの映像も収められており、音響も素晴らしく、まるで実際のホールで演奏を聴いているかのような臨場感。
これはぜひ映画館で体験してほしい作品です。

さらに、ブーニンの指導を受けたピアニストである
桑原志織反田恭平亀井聖矢 も出演し、ショパンコンクール前のレッスンの様子など、彼の人間的な側面が率直に描かれていました。

中でも、私の心に強く残ったのは、最後に流れる ヨハン・セバスチャン・バッハ のカンタータの場面です。

1988年、ドイツ・ボンでの演奏旅行中、ブーニンは厳しい監視の中、一瞬の隙をついて西ドイツへ亡命します。
まるでスパイ映画のような緊迫した状況の中、彼の心を支えたのがバッハの音楽でした。

アウトバーンを走る車のラジオから偶然流れてきたカンタータ。
それは彼にとって「神の啓示」のように響き、「大丈夫、自分の道を行きなさい」と語りかけてくるように感じられたといいます。

音楽が人を救う瞬間——その重みを、静かに、しかし確かに感じさせられる場面でした。

1980年代、冷戦からベルリンの壁崩壊へと向かう激動の時代。
芸術家やスポーツ選手たちが時代に翻弄された中で、ブーニンもまたその一人でした。

作中では、フレデリック・ショパン の人生に自身を重ねる姿も描かれます。
祖国を離れ、生涯帰ることが叶わなかったショパン。
その想いに触れ、「ああ、ショパンもずっとポーランドに帰りたかったのだ」と、あらためて心に響きました。

帰宅後、思わずマズルカを弾いてしまいました。

今もなお、世界のどこかで戦争が続いています。
その中で苦しんでいるアーティストたちも、きっといるのでしょう。

この映画は、音楽の力と、人が生きるということの意味を、静かに問いかけてくれる作品でした。